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旭川地方裁判所 昭和43年(ワ)96号 判決

主文

被告らは、訴外小林ツゲが原告らに対し別紙目録記載の不動産につき旭川地方法務局昭和三九年四月一四日受付第一一九三三号原因同年同月一三日停止条件付代物弁済契約による所有権移転の仮登記に基づき同年五月一一日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をすることを承諾せよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因として、

「一、原告らは、昭和三九年四月一〇日、訴外小林ツゲに対し金四八五万円を、利息月一分、弁済期同年五月一〇日の約定で貸し渡し、同年四月一三日、同訴外人との間に、別紙目録記載の不動産について、停止条件付代物弁済契約を締結し、旭川地方法務局同年同月一四日受付第一一九三三号を以て右停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転の仮登記を受け、その後訴外人が債務の弁済をしないから、右訴外人に対し仮登記に基づく本登記手続請求の訴を提起し、旭川地方裁判所昭和四二年(ワ)第四八号事件として原告ら勝訴の判決が確定した。

二、被告小林は、別紙目録記載の不動産について、旭川地方法務局昭和四二年二月二三日受付第五三九二号を以て、同日旭川地方裁判所の競売手続開始を原因とする強制競売申立の登記を得ている。

三、被告神居石油は、別紙目録記載の不動産について、旭川地方法務局昭和四二年一一月四日受付第三四九八号を以て、昭和三九年二月二八日金銭消費貸借の同年三月二八日設定契約を原因とする抵当権設定登記を受けている。

四、被告熊林は、別紙目録記載の不動産につき、旭川地方法務局昭和四二年一二月八日受付第三九四三八号を以て、同年同月二日売買を原因とする所有権移転の登記を得ている。五、原告らは、第一項記載の仮登記に基づき所有権移転の本登記手続を申請するについて不動産登記法第一〇五条第一項により、利害関係人である被告らの承諾に代わる裁判を求める。

と述べ、被告神居石油および被告熊林の主張に対し、

一、原告らが別紙債務表記載の訴外小林勇作の債務を代位弁済したこと、原告らが別紙弁済表記載の不動産を代物弁済として所有権の移転を受けたことは認めるが、その評価の金額は争う。即ち、別紙弁済表記載一および二の1関係分は金二九〇万円、同表二の2については金一四〇万円と協定されたものである。

二、原告らが別紙弁済表三記載の金員を受け取つたことは認めるが、右は訴外菅井重夫の不動産競売事件において、抵当権者である訴外旭川信用金庫に金六五万円、同鶴山茂光に金五〇万円を支払うためのもので、原告らに対する弁済ではない。

三、被告らのその余の主張は争う。

と述べた。

被告小林は、請求棄却の判決を求め、答弁として、

一、請求原因中、別紙目録記載の不動産についての登記関係は認めるが、その余は争う。二、訴外小林ツゲは、原告らから借金をし、その債務担保のため、原告らに対し停止条件付代物弁済契約に基づく仮登記をしたが、目的不動産を売却しその代金を以て原告らに弁済する約束であつた。ところが、原告らは、その売却を妨害し、目的不動産を占有して明け渡さず、本訴請求は権利の濫用である。

と述べた。

被告神居石油、同熊林訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、請求原因第一項は不知、第二項ないし第四項記載の事実は認めるが、その余の主張は争うと答え、つぎのように主張した。

一、原告らを権利者とする別紙目録記載の不動産についての旭川地方法務局昭和三九年四月一四日受付第一一九三三号同年同月一三日停止条件付代物弁済契約による所有権移転の仮登記は実体関係に符合しない無効の登記である。

1、右不動産の所有者であつた訴外小林ツゲは、原告らと金銭消費貸借契約をしたこともなければ、その不動産について停止条件付代物弁済契約をしたこともない。

右仮登記は、訴外小林ツゲの夫小林勇作が、ツゲに無断で、原告らと勇作間の消費貸借上の債務を担保するためにしたものである。

2、仮に訴外小林ツゲの承諾があるとしても、訴外小林勇作は、原告らと本件建物を代物弁済とする契約をした事実はなく、原告らに対する債務担保のため、抵当権設定登記を承諾し、原告らにその登記手続をまかせたところ、原告らは右仮登記をした。

二、右事実が認められないとしても、原告らは、右仮登記にもとづいて代物弁済による所有権取得を主張することは信義則上許されない。

1、原告らの債権は金四八五万円であり、別紙目録記載の不動産の価格は仮登記時金八五〇万円を下らなかつたから、その間に合理的均衡を有しない。

2、原告らは、右仮登記後、訴外小林勇作の別紙債務表記載の債務を同表記載の日時に代位弁済して、同訴外人の債務を整理し、これに対し、訴外小林ツゲおよび小林勇作は、原告らに対し、それぞれ別紙弁済表記載のとおりの弁済をした。

3、被告神居石油および被告熊林は、訴外小林ツゲに代位して、別紙債務表記載の代位弁済額金六〇〇万八、三九五円と、弁済表記載の弁済額合計九一七万円の差額金三一六万一六〇五円を以て、原告ら主張の仮登記によつて担保されている被担保債権と対等額で相殺の意思表示をなし、したがつて、原告らの債権残額は金一六八万八、三九五円となる。

つぎに、訴外小林ツゲは、昭和四〇年八月一日、原告らに対し、別紙目録記載の不動産を賃貸した。その賃料は、昭和四〇年中は一カ月金九万円、昭和四一年一月以降一カ月金一〇万円が相当であるところ、昭和四〇年八月から昭和四三年八月までの賃料合計金三六五万円となるから、被告らは訴外小林ツゲに代位して、原告らの訴外小林ツゲに対する金四八五万円の債権についての昭和三九年四月一〇日から昭和四三年八月まで月一分の割合による利息合計金二五四万九、〇四〇円とを対等額で相殺し、さらに訴外小林ツゲの賃料債権残額金一〇〇万九六〇円と、前記原告らの債権残額金一六八万八、三九五円とを対等額で相殺の意思表示をする。

よって、原告らの訴外小林ツゲに対する債権の残額は、昭和四三年八月当時金六八万七、四三五円となり、その代物弁済として金八五〇万円を下らない別紙目録記載の不動産を取得することは許されない。

三、以上の事実が認められないとしても、原告らの有する停止条件代物弁済契約上の地位は、債権担保のためのものであつて、物件の転売価格または時価から債権額を控除した残額は債務者たる訴外小林ツゲに支払われるべきものであり、被告神居石油および被告熊林は、訴外小林ツゲに代位して、右精算額と引換でなければ、原告の本訴請求に応じられない。

〈証拠省略〉

理由

別紙目録記載の不動産について、原告らが旭川地方法務局昭和三九年四月一四日受付第一一九三三号を以て同年同月一三日停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転の仮登記を得ていることは、原告らと被告小林との間で当事者間に争いがなく、原告らと被告神居石油、同熊林との間においては弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、同不動産について、被告小林が旭川地方法務局昭和四二年二月二三日受付第五三九二号を以て強制競売申立の登記、被告神居石油が同法務局昭和四二年一一月四日受付第三四九八五号を以て抵当権設定の登記、被告熊林が同法務局昭和四二年一二月八日受付第三九四三八号を以て所有権移転の登記を得ていることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉を総合すると、別紙目録記載の不動産はもと訴外小林ツゲの所有であったが、原告らは、昭和三九年四月一〇日、同訴外人に対し金四八五万円を貸し渡した際、弁済期を同年五月一〇日と定め、弁済期に債務の弁済をしないときは、別紙目録記載の不動産を代物弁済として原告らに所有権を移転する旨停止条件付代物弁済契約を同訴外人との間に締結し、原告らが前認定の所有権移転の仮登記を受けたこと、原告らは訴外小林ツゲおよび同人の夫勇作と友人関係にあることから、当初取立てを余り厳しくすることなく、訴外小林ツゲの方で別紙目録記載の不動産を売却し、その処分代金から弁済を受けてもよいと考え、昭和四〇年二月九日、訴外小林勇作に対し、右不動産売却の委任状を交付していること、原告らは、弁済期に弁済のないとき右不動産による風呂屋営業が直ちに原告らに帰属すると考えていなかったこと、訴外小林ツゲはその弁済期に債務の弁済せず、原告らと同訴外人との間に、同訴外人は原告らに対し、別紙目録記載の不動産につき、旭川地方法務局昭和三九年四月一四日受付第一一九三三号原因同年同月一三日停止条件付代物弁済契約による所有権移転の仮登記に基づき、同年五月一一日代物弁済を原因とする所有権移転の本登記手続をすベき旨命ずる確定裁判(旭川地方裁判所昭和四二年(ワ)第四八号)が存在することが認められる。〈証拠判断省略〉。

そして、弁論の全趣旨によれば、別紙目録記載の不動産は、その営業上の権利と共に処分をする場合、前認定の原告らの訴外小林ツゲに対する債権額を相当程度上回ることが窺われ、このような事情のもとに前認定の事実を考えると、別紙目録記載の不動産に対する停止条件付代物弁済契約は、いわゆる清算型停止条件付代物弁済契約と認めるのが相当である。

即ち、代物弁済は債権担保のために借用された形式にすぎず、契約の実質的目的は、債権者が目的物件を換価処分し、これによって得た金員から債権の優先弁済を受けることを可能ならしめようとするもので、したがって、換価金額が債権額を超えれば超過分は債務者に返還すベきものと解される。

このような清算型停止条件付代物弁済契約が抵当権等の併用担保を伴わずになされた場合、右停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転の仮登記より後順位の強制競売申立債権者、抵当権者、第三取得者が、仮登記権利者の仮登記に基づく本登記をすることについて承諾義務を負うかについては説の分れるところであるが、仮登記権利者の優先弁済を保障する実定法上の根拠が明確でない以上、承諾義務を負うものと解するのが相当である。被告らは、原告らの本訴請求が権利の濫用ないし信義則に反する旨主張するけれども、清算型停止条件付代物弁済契約であっても、その目的物件の処分と清算手続に先立って、弁済期の経過と同時に右物件の所有権は原告らに帰属しており、原告らが一たんこれを自己の所有名義にすることは許されるものというべく、債務者である訴外小林ツゲの本登記義務が裁判によって確定している以上、被告らに対する原告らの本訴請求が権利の濫用ということはできず、また債務者の本登記手続義務と債権者の差額返還義務が同時履行の関係にあるとは考えられないから、被告神居石油、同熊林が主張する差額返還義務と引換えでなければ本訴請求に応じられないという主張も理由がない。

よって、原告らの被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

〈以下省略〉

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